2009.12.6 新宿FACE 総評
試合まえの調印式から主導権は挑戦者にあった。春山香代子vsさくらえみのJWP認定無差別級選手権試合。挑戦者のさくらは調印式でのコメントを通じ、これまでの出来事を知らないファンにも理解できるように、春山戦に至る経過を意気込みとともに説明する形を取った。そのなかには、日向あずみを引退直前まで闘いの最前線に戻したいとの訴えも込められていた。これを聞けば、たとえJWPのファンでもさくらの言葉に心を動かされたのではないか。日向の引退まで「もう3週間しかない」のではなく、「まだ3週間もある」のである。さくらが春山から無差別級王座を奪取すれば、日向が無差別級&ICE×60王座の2冠に挑戦する試合が組まれることがすでに決定している。「最後まで勝ちにこだわる試合をしたい」とする日向だからこそ、この闘いを見たいと思ったファンは多いに違いない。実際、アイスリボンのリングで実現したさくらと日向のシングル戦は、2試合ともまったく異なるテイストの好勝負となった。それだけに、3度目がどんな展開になるか見てみたいと思うのだ。
一方の春山は、調印式でもこれまでの姿勢を貫き通した。春山の主張は「無差別の重さ」。多くを語ろうとしない春山の姿勢は、王者らしさとして評価に値する。ここで崩してしまってはさくらの思う壺という意識もあっただろう。もどかしさがあるとはいえ、貫き通すことは立派である。
そして迎えたタイトルマッチ。場内は、これまでのJWPではありえなかった雰囲気に包まれた。春山が圧倒的なアウェー感をホームリングで感じてしまう一種異様なムード。投げ込まれた紙テープの数はほぼ同数ながら、場内から湧き出したコールに関しては断然、さくらのほうが上だった。さくらにとっては当たり前ながら、これまでのJWPになかったものが現出したのだ。10・4後楽園での米山戦においても、これまでのいきさつはなかったも同然でリングに上がっていた挑戦者。知っている人は知っているけれど、大きな器になればなるほどそうはいかなくなる。挑戦者だからこそ観衆を味方につけて力にしたいはずなのに、五分の状況で対峙してしまっては、その時点で王座奪取の可能性が低くなってしまいかねない。実際、米山はこれで2度チャンスを逃した。試合後にいくら号泣しても、それこそ後の祭りである。「挑戦者ガンバレ」の雰囲気をもっともっと作っておけば、状況が変わる可能性があったと思うのだが。
その点で、さくらえみは場内の雰囲気をうまく逆転させることに成功した。試合開始前から「さくら勝ってくれ!」「さくら頼むぞ!」の声が客席から飛びかった。試合中、ハルヤマコールも絶えずにかかっていたものの、さくらへの声援を凌駕し全体的なムードを変えるには至らない。結果的に防衛に成功したものの、試合として春山は随分さくらに助けられたと思う。
昨年に続き、無差別級王者としての年越しが決定した春山。ただし、彼女自身もバックステージでコメントしていたように、「100人中100人がJWPの無差別級王者が春山香代子とは思っていない」のが現実である。「合格点はあげられない」という春山。実際、JWP内ではMVPだとしても、女子プロ全体でのMVPに推す人はハッキリいって少数派だろう。最高峰のベルトをもつ王者の印象がいまひとつとなれば、団体全体にとってもうれしくない事実だ。
しかしながら考えようによっては、防衛記録以上にこの日の春山は収穫を得たのではないか。今後、王者・春山香代子をどう印象づけていくか。「チャンピオンだといっても本当のトップじゃない。JWP無差別級王者としての自分をもっともっと広めていかないと。小さくまとまるんじゃなくて、もっと大きく外に出ていかないといけないと思う」。春山がこうコメントしていたように、彼女自身も十分に感じている。日向あずみのいないJWPはもうすぐ現実としてやってくる。防衛最多記録を保持していても、王者としての本当の資質が問われるのはむしろこれから。JWP無差別級王者・春山香代子の今後に期待したい。 (新井 宏)
一方の春山は、調印式でもこれまでの姿勢を貫き通した。春山の主張は「無差別の重さ」。多くを語ろうとしない春山の姿勢は、王者らしさとして評価に値する。ここで崩してしまってはさくらの思う壺という意識もあっただろう。もどかしさがあるとはいえ、貫き通すことは立派である。
そして迎えたタイトルマッチ。場内は、これまでのJWPではありえなかった雰囲気に包まれた。春山が圧倒的なアウェー感をホームリングで感じてしまう一種異様なムード。投げ込まれた紙テープの数はほぼ同数ながら、場内から湧き出したコールに関しては断然、さくらのほうが上だった。さくらにとっては当たり前ながら、これまでのJWPになかったものが現出したのだ。10・4後楽園での米山戦においても、これまでのいきさつはなかったも同然でリングに上がっていた挑戦者。知っている人は知っているけれど、大きな器になればなるほどそうはいかなくなる。挑戦者だからこそ観衆を味方につけて力にしたいはずなのに、五分の状況で対峙してしまっては、その時点で王座奪取の可能性が低くなってしまいかねない。実際、米山はこれで2度チャンスを逃した。試合後にいくら号泣しても、それこそ後の祭りである。「挑戦者ガンバレ」の雰囲気をもっともっと作っておけば、状況が変わる可能性があったと思うのだが。
その点で、さくらえみは場内の雰囲気をうまく逆転させることに成功した。試合開始前から「さくら勝ってくれ!」「さくら頼むぞ!」の声が客席から飛びかった。試合中、ハルヤマコールも絶えずにかかっていたものの、さくらへの声援を凌駕し全体的なムードを変えるには至らない。結果的に防衛に成功したものの、試合として春山は随分さくらに助けられたと思う。
昨年に続き、無差別級王者としての年越しが決定した春山。ただし、彼女自身もバックステージでコメントしていたように、「100人中100人がJWPの無差別級王者が春山香代子とは思っていない」のが現実である。「合格点はあげられない」という春山。実際、JWP内ではMVPだとしても、女子プロ全体でのMVPに推す人はハッキリいって少数派だろう。最高峰のベルトをもつ王者の印象がいまひとつとなれば、団体全体にとってもうれしくない事実だ。
しかしながら考えようによっては、防衛記録以上にこの日の春山は収穫を得たのではないか。今後、王者・春山香代子をどう印象づけていくか。「チャンピオンだといっても本当のトップじゃない。JWP無差別級王者としての自分をもっともっと広めていかないと。小さくまとまるんじゃなくて、もっと大きく外に出ていかないといけないと思う」。春山がこうコメントしていたように、彼女自身も十分に感じている。日向あずみのいないJWPはもうすぐ現実としてやってくる。防衛最多記録を保持していても、王者としての本当の資質が問われるのはむしろこれから。JWP無差別級王者・春山香代子の今後に期待したい。 (新井 宏)
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